梅田望夫さんに関するネット上での騒動で私が思う4つの「なぜ」

先日6月1日と2日に、IT mediaというページに梅田望夫さんのインタビュー記事が掲載されており、ネット上で話題というか、騒動になっております。。私も読みました。

日本のWebは「残念」梅田望夫さんに聞く(前編)
Web、はてな、将棋への思い 梅田望夫さんに聞く(後編)

私は再三申し上げておりますが、梅田望夫さんの著書にインスパイヤされてこのブログを始めましたし、実際梅田望夫さんとも一度ですがお会いしたことがありますし、メールでもやり取りをさせて頂いております。

私はこのIT mediaというサイトが掲載したインタビュー記事に大変怒りを感じており、何も言わず静観すべきかとも思いましたが、誰に何を言う意図があるわけでもありませんが、私なりの思ったことを書いておくべきと思いまして、私がどうしても腑に落ちない「4つのなぜ」について書かせて頂きます。少々言葉が荒くなるかもしれませんがご了承下さい。

  • なぜ1:なぜこれからのWebを育んでいくべき存在であるIT系メディアが自らWebを殺そうとするのか
  • なぜ2:なぜ本業を少し離れて「自分が今まで愛してきた趣味」の話をすることがいけないのか
  • なぜ3:なぜ「梅田さん=Web進化論」と決め付けるのか
  • なぜ4:なぜ「一流vs一般」という短絡的で旧態的な対立概念だけで捉えようとするのか

なぜ1:なぜこれからのWebを育んでいくべき存在であるIT系メディアがWebを殺そうとするのか

メディアが何か記事を掲載する際(インタビュー記事であっても)、必ずその「狙い」というものがあるはずだと思うんです。キーメッセージが。そしたら、今回のインタビュー記事の狙いは何だったのかと考えると、記事を読んでもよくわからない。あえて何だろうと色々考えてみると、「梅田さんがWebの世界から将棋の世界に移り、Webを見限ったということを言わせよう」という、浅はかなレベルの低い意図しか見えてこないんですよ。そういう風に誘導しようしようという意図が見え見えで、重箱の隅を突っつくようなしょーもない質問ばっかり。

Webってまだ一般的なものになって20年も経ってないですよね。まだWebの存在って成人になったか、なってないかぐらいだと思うんですよ。人間で言えばこれから社会に出てひとり立ちしようかというところまでも言ってませんよね。そういう微妙な時期にいるWebを今後大きく育んでいくべき存在じゃないんでしょうか、IT mediaって。

今回のインタビューをWebに関心を持っている高校生が読んだとしたらどう思いますかね。さすがに高校生でも「何か変」「Webって怖い」って思うんじゃないでしょうか。そうやって、本来Webを育んでいくべき存在であるIT mediaが自ら「Webを殺す」ような記事を掲載し、そしてその行く末は自分の首を絞める結果になると思うんですよ。

要はアクセス数稼げればそれでいいんですかって思いましたよ。私は個人のブログで色々な意見が出るのは良いと思うんですよ。それがWebの魅力ですから。但し、Webをビジネスとしている人たちが自らのWebメディアで今回のような「Webを殺す」ような記事を掲載するのはなぜなのか、全く理解できません。もっと「Webを育んでいく」という発想でサイト・記事を構成すべきだと強く思います。

なぜ2:なぜ本業から少し離れて「自分が今まで愛してきた趣味」の話をすることがいけないのか

今回のインタビュー記事は梅田さんが最近発刊された著書「シリコンバレーから将棋を見る」について語るということが発端になってるんですが、なんでそんな発想になるのか全く理解できないのですが、梅田さんに「Webを見捨て将棋界の人になると言わせたい」「(棋士のような)頭のいい人はすばらしいと言わせたい」という流れの強引なインタビューなんですよ。梅田さんは本業の経営コンサルティングの立ち位置はそのまま維持しつつ、少しだけ本業を離れて、ずっと大好きで追っかけ続けている将棋の話の本を書かれただけなのに、それを「Webを見捨てた」かの言い方は短絡的にも程があります。

経済学者が本業を離れて大好きなワインの話をしたりとか、本を書いたりすることもあるでしょう。ちょっと本業を離れた趣味の本を書いただけでもう本業から足を洗うなんてことになりますか?絶対にならないですよね。その経済学者の方が「いやーやっぱり一流のワイナリーで生産されたワインは何とも一流の味が楽しめますね」とか言ったら、それは「一流賞賛・一般人軽視」ってなりますか?ならないですって。

私も「シリコンバレーから将棋を見る」を読みました。確かに一流の棋士の方々を褒め称える記述も多数あります。ですが、それは「一流のワインがおいしいね」と同じで、ある「人・もの」の素晴らしさをある意味芸術的な視点で褒め称えているだけなのに、なんでそれが「頭のいい人はすばらしいとおっしゃっている印象を持つ」という発想になるのか。梅田さんもブログで取り上げられているんですが、「もうおっさんうれしくて仕方がない」(極東ブログの書評)」という思いで「シリコンバレーから将棋を見る」を上梓されただけなんですよ。

自分が愛してきた趣味の世界の素晴らしい人・ものを素晴らしいと言っているだけなのに、なんでこんな極端な論理になるのか。私には全く理解できません。

なぜ3:なぜ「梅田さん=ウェブ進化論」と決め付けるのか

私は梅田さんの著書を全部読んでますし、ブログ・インタビュー記事などもほとんど目を通しているつもりです。その上で考えてみると、梅田さんの一番言いたいことが書いてある本は「ウェブ進化論」ではなく、「ウェブ時代をゆく」だと私は思っています。

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

私は、「梅田さんはWebの人ではない」と思っているんです。「ウェブ時代をゆく」を読んで頂けるとわかると思うんですが、梅田さんが語る「Web」とは、現在まさしく起きている時代の大きな変化の一つであって、メインテーマは「Web隆盛をはじめとするこの時代の大きな変化にどう立ち向かっていくか」ということだと思うんです。ですので、この時代の変化に立ち向かっていくための「手段」はWebだけではないし、実際「ウェブ時代をゆく」ではWebに限定しない様々な方法論が提案されています。

ウェブ進化論」では確かにGoogleを賞賛するような内容ではあるんですが、「ウェブ時代をゆく」では、「そしたらGoogleが引き起こす時代の変化にどう立ち向かっていったらいいか」ということについて丁寧に述べられていて、「コモディティー化しないと固く誓う」という、Webの世界に限定されない非常に普遍的な価値観を述べられています。

梅田さんのスタンスは「今起こっている時代の大きな変化に対し、どのようにサバイバルしていくかの方法論を、Webに限定されず提案していく」ということであり、「梅田望夫ウェブ進化論」という短絡的な公式で捉えるのはもうやめてほしいと私は思います。

今回のインタビュアーに「ウェブ時代をゆく」の再読をお勧めします。

なぜ4:なぜ「一流vs一般」という短絡的で旧態的な対立概念だけで捉えようとするのか

「なぜ2」でも書きましたが、梅田さんが一流の棋士たちの生き様をあまりにも褒めるものだから、インタビュアーは「一流 vs 一般」という対立概念を無理やり持ち込んで、梅田さんに「一流が好き(非一流は。。。)」と言わせたい意図見え見えのインタビューを行っています。

Webというものは、本来特権階級の人達で独占されていた「情報の保有権・発信権」を一般の人でも容易に獲得できるようにして、一般の人達が持てる力をエンパワーメントしようという狙いのものだと私は思っていて、梅田さんも著書の中でこのことを再三述べられています。

Webは徐々にかもしれませんが確実にその狙いを実現していて、私のような一般人がこうやって何かを発信するきっかけを得たり、また一般的に学歴が低いと言われる人達がWebの力を使って会社を立上げたり、上場企業の社長になったりと、旧来には無かった新しい動きを実現させています。ホームレスだった方が上場企業の社長になったりもする事例もあるんですから。

梅田さんはそのことを十二分にご理解されていて、私のようなわけのわからない一般人にも会って頂けたりするわけですよ(梅田望夫さんにお会いすることができました!)

つまり、Webの世界が隆盛すればするほど従来あった「境界線」では区分できない新しい動き・世界がどんどん生まれており、「一流 vs 一般」という対立概念はもう「石器時代の大昔の概念に過ぎない」ということだと思うんですよ。

他にも、Webのおかげで「都市 vs 地方」という概念にも風穴を開けつつあるし(Rubyまつもとゆきひろさんが島根県松江市にお住まいであったりetc.)、「プロ vs アマ」という概念にも挑戦するような事例も出てきています(勝手広告の事例 etc.)

Webの隆盛でせっかく生まれつつあるオープンでフラットで自由な世界を、今回のインタビューのような、ある偏った思想で「壊す」のは本当にやめてほしいです。もう「一流 vs 一般」という短絡的で、石器時代的な捉え方はもうやめにしませんか。

最後に:もっと「Webを育む」気持ちを持ちましょうよ

私は今製造業に従事しているので良くわかるんですが、これからの将来、製造業で雇用を維持・増加させることはかなり厳しい状況です。みんなが「ご飯を食べていく」ということを考えると、Webに代表される新産業は雇用の担い手をして本当に重要な役割を担っています。来年卒業の新卒就職活動なんてもう本当に大変ですよ。学生さんには本当に気の毒というしかない状況です。従来型の大企業で内定を獲得できなかった学生さんが、何とか新興のWeb関係の会社で職を得ることができたということが現実に起こっているわけです。

Webが市民権を得てからまだ20年も経ってません。まだ成人ではないと思うんです。ですので、Webに関わる人達が今回のインタビューのような醜い足の引っ張り合いをするんじゃなくて、手を取り合って、みんなで協力して「育んでいく」という発想で仕事に取り組んでいかなければいけないと私は思います。特にIT mediaは、IT media以外でも素晴らしいサイトを沢山お持ちで私も好きなサイトですので、今回のインタビューのようなすごく偏った記事を掲載するようなメディアではなく、もっと大きな「Webを育むリーダー的存在」に是非なってほしいと節に願うばかりです。



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