三十歳から四十五歳を無自覚に過ごすな 〜菊地敬一氏 2/2〜

前回のエントリー三十歳から四十五歳を無自覚に過ごすな 〜菊地敬一氏 1/2〜で、菊地さんがいかにヴィレッジ・ヴァンガードを一大全国チェーンに育て上げたかをご紹介しました。

今回は菊地さんの足跡から私が学んだ「自分ラボを持つ」ということについて書いてみたいと思います。

自分ラボ」とは何か 〜自分の思いを実験する場を作る〜

ヴィレッジ・ヴァンガードのコンセプトである「遊べる本屋」。ここの出発点は、ヴィレッジ・ヴァンガード創業前に勤めていたブックショップ大和田での「小さな実験」でした。書店の中の一つの書棚コーナーで、雑誌のバックナンバーや、マイナーなコミックなど、菊地さんの価値観とセンスを爆発させた書棚づくりを試み、新刊やベストセラーに頼らず、売りたいものをわかってくれる人のために売るというコンセプト。これが受け入れられるかどうか。菊地さんはこれを実験したんですね。それも小さく。これは菊地さんの思いを実験する「自分ラボ」だったんだろうなと思ったんですね。これって、私たちにとても重要なことを教えてくれると思うんですよね。

企業が「自分ラボ」を奨励するケース

以前より、3Mの「15%ルール」Googleの「20%ルール」など、研究開発を重視する企業を中心に、従業員に「自分ラボ」を持つことを奨励する企業が存在しています。3Mの「ポストイット」はこの15%ルールから生まれたという話は有名ですよね。またGoogleの多くの新サービスはこの20%ルールから生まれ、その後GoogleのSiteの中の「Google Labs」でβ版が公開、好評を得たものがGoogle Labsを卒業し、本格的なサービスがスタートします。また日本企業でもサイボウズの「50%ルール」が有名です。ただ、何でも好きなことをやっていいということでもなく、3Mも、Googleも、サイボウズも、その「自分ラボ」で何をやっているかがマネジメントされ、その成果も評価されますので、「緊張感を持った自由研究」であることは知っておく必要があると思います。

正直このような企業は一握りなのですが、Googleのような時代の先端を切り開く企業が、このような「自分ラボ」を奨励し、実際新規事業を立ち上げているという事実は、私たちに「いかに働くか」の再考を迫っているようにも思います。たとえ自分の会社に「15%ルール」や「20%ルール」が無かったとしても、自ら意識的に「自分ラボ」を持ち、自分の思いや考えを「実験する」場を持つことが必要ではないかと思うんですね。

Webが「自分ラボ」の可能性を広げる

菊地さんの場合は「本屋の書棚」というリアルな「自分ラボ」が持てたのですが、みんながそう恵まれた環境にいるわけじゃないですよね。ですが、Web技術の進展により、以前より遥かに容易に「自分ラボ」を持つことが可能になったなと私は思っています。

中でもブログを使った「自分ラボ」は障壁が低く、かつ無限の可能性を秘めたツールではないでしょうか。梅田望夫さんは著書「ウェブ時代をゆく」で、「けものみち*1を生き抜く思考法の一つとして、こんなことをおっしゃってます。

自分の志向性や専門性や人間関係を拠り所に「自分にしか生み出せない価値」(さまざまな要素からなる複合技)を定義して常に情報を発信していくこと(ブログが名刺になるくらいに。自分にとって大切ないくつかのキーワードの組み合わせで検索すると自分のエントリーが上位に並ぶようなイメージ)。(P103)

ブログ上で自分が生み出そうとしている価値をベースに「個としてのストーリー」を描きながら、ブログのエントリーを構成していく。そして自分が作り出した「知的生産物」をブログ上で公開し、その反応を得てブラッシュアップしていく。そしてそのブログ・知的生産物の「競争力」をGoogleの検索結果で評価・分析し、その競争力を磨く努力を継続する。またブログを介して知り合った同じ分野で勝負している人との横のつながりを大切にしながら、Web上でも、リアルの世界でも「個としてのストーリー」を実現しながら、絶えず「自分をコモディティー化させない」と誓いながら、自分を進化させていく

私達はブログというツールを使った「自分ラボ」を意識的に持つことにより、菊地さんが書店の中の一つの書棚を使った「小さな実験」を比較的簡単かつ自由に行うことができる。これは非常に面白いことだし、もっと興奮してもいいかもしれません。

理系だけでなく、文系も「自分ラボ」を

一般的に「理系」と呼ばれる人たちにとって、「自分ラボ」という考え方は何も新鮮さはないかも知れません。LinuxRubyPerlといったオープンソースのソフトウェアについても、この最初の出発点は、リーナス・トーバルス氏、まつもとゆきひろ氏、ラリー・ウォール氏が自分のエンジニアとしての力を試す「自分ラボ」だったと思います。ウィキペディアもそうでしょう。ただ、そこにかける情熱、時間、使命感は常軌を逸したものだと思いますが。。。

Googleで「自分ラボ」で検索すると、一番トップに来るのは、yusukeookiさんが、仕事以外で作成されたプログラムを公開している「自分ラボ」が出てきます。これも「理系の自分ラボ」ですね。

菊地さんは文系出身。私も文系出身ですが、文系も意識的にもっと「自分ラボ」を持って、もっと情報発信すべきだと思っています。ソフトウェアエンジニアの「自分ラボ」を見ていると、自分の「本業」と関連性は保ちながら、意識的に「新しい分野」に顔を突っ込んだ知的生産物を生み出し、それをブログ上で公開してます。こういうことが文系でもできるのではないかと。

文系というか、経営の分野では、「フレームワーク」に関するニーズが非常に強いと思います。一般的な経営理論=フレームワークに自分が経験した事例を味付けし、そこにさらに自分が研究した他社事例を加え、「自分しか出せない価値」を持ったフレームワークをブログ上で公開する。そんな「文系自分ラボ」がもっと生まれて欲しいし、私もこのブログを「自分ラボ」と位置づけ、意識的に情報発信していきたいと思っております。

菊地さんの「自分ラボ」を起点とするヴィレッジヴァンガードの成功に触れ、そんなことを考えました。

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*1:好きなこと、やりたいこと、やりたくなくてもできることを総合的に組み合わせ、特には組織に属すのもよし、属さぬもよし、人との様々な出会いを大切にしながら「個としてのストーリー」を組み立て、生きていく生き方。一つの分野を徹底的に突き詰めて、高く険しい道を登り続ける生き方=「高速道路」と対立する考え方(梅田望夫著「ウェブ時代をゆく」より)