夢の実現の前のレンガの壁 〜ランディ・パウシュ「最後の授業」〜

「自分が死ぬかもしれない」という現実に直面した人が残す言葉。これほど私達の心に深く刻まれる言葉はないかもしれません。スティーブ・ジョブズスタンフォード大学でのスピーチもそうですよね。

偶然に知った、今回ご紹介するカーネギーメロン大学教授ランディ・パウシュ。彼は肝臓ガンとなり、余命3〜6ヶ月を宣告された今、「最後の授業」と題し、自分がみんなに伝えたいことをとてもエキサイティングな「授業」という形態で伝えてくれます。そしてこれは全世界で反響を呼び、そして私たちは全ての「授業」をYoutubeで見ることができます。これもウェブのおかげですね。

ランディ・パウシュ Randy Pausch
カーネギーメロン大学教授(コンピュータサイエンス、ヒューマン・コンピュータ・インタラクション、デザイン)。1988~1997年はバージニア大学で教鞭をとる。教師としても研究者としても評価が高く、アドビ、グーグル、エレクトロニック・アーツウォルト・ディズニーイマジニアリングで働いた経験ももつ。ストーリーテリングやゲームを通じて初心者がプログラミングを簡単に学べる革新的な3Dグラフィクス作成環境「Alice(アリス)」の生みの親の1人。カーネギーメロン大学のドン・マリネリ教授とともにエンターテインメント・テクノロジー・センター(ETC)を設立。

ランディが伝えたかったこと 〜夢の実現の前のレンガの壁〜

私のBlogはいつも長くて恐縮なんですが、今回は史上最長となってしまいました。。今回は私が思ったことを最初に書きたいと思います。

ランディは9つに分かれたYoutubeでの「授業」で色んなことを教えてくれました。その中でも一番彼が伝えたかったのではと思ったのは、「最後の授業3」で語られるこの言葉です。

なぜ夢の実現の前にレンガの壁が立ちはだかるのか。それは夢に対する思いを証明するため。思いの弱い人はここで止まってしまう。

ランディは子供からの夢の実現の前に立ちはだかった「レンガの壁」を乗り越え、すばらしい功績を築き上げました。そして彼は今、「多くの人の夢を叶えることを助ける」夢に向かって一歩一歩進んでいたのです。そんな彼の前に立ちはだかった「レンガの壁」これが肝臓ガン、そして死なのです。

ですが、ランディは決してそのレンガの壁の前で立ち止まろうとはしません。自分が生きている限り、そしてたとえ死んでしまったとしても、自分が残した遺産で少しでも多くの人の夢をかなえることの手助けになろうと必死で生きています。そしてランディが自分の前に立ちはだかる「レンガの壁」を越えようと奮闘している。それがこの「最後の授業」なのです。

彼はまさしく「レンガの壁」を越え、自分の夢を実現しようとしているのです。

ランディの「最後の授業」を聞き、梅田望夫さんの著書「ウェブ時代5つの定理」でも最後に紹介されている、スティージョブズスタンフォード大学でのスピーチの言葉を思い出しました。

君たちの時間は限られている。その時間を、他の誰かの人生を生きることで無駄遣いしてはいけない。ドグマにとらわれてはいけない。それでは他人の思考の結果とともにいくることとなる。他人の意見の雑音で、自分の内なる声をかき消してはいけない。
最も重要なことは、君たちの心や直感に従う勇気を持つことだ。心や直感は、君たちが本当になりたいものが何かをこうとうの昔に知っているものだ。
だからそれ以外のことは全て二の次でいい。(P256)

今回私は全9編を視聴し、心に残ったことを中心に書きました、1編ごとに書き、その下にYoutubeに飛べるようにしましたので、是非Youtubeでランディの声に触れてほしいと思います。また、書籍にもなってますので、是非ご一読下さい

最後の授業 DVD付き版 ぼくの命があるうちに

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ランディ・パウシュ「最後の授業」1

ランディは冒頭に自分のCTスキャンのレントゲン写真を写しだし、自分の肝臓に腫瘍が多数あり、余命3〜6か月と宣告されたことを告白します。しかし、本人に全く悲壮感がない。聴衆の前で腕立て伏せ+αを披露、「この会場で一番健康なのは僕だ!」と語ります。そして、「最近改宗したんだ」と。「ウインドウズ派からマッキントッシュ派に!」ここで大爆笑!とにかく悲壮感がないんです。

ランディは余命3〜6か月という現実と今の自分のマインドセットを「現実は変えられないけど、現実の受け止め方を変えるんだ。自分が持っているカードを使って。」と表現しています。

そして、今回の授業のテーマである「子供のころからの夢をどうやって叶えるか」そして「他の人が夢をかなえようとするのをどうやって助けるか」ということについて述べ始めます。「人が夢をかなえることを助けることは本当に楽しいことだ」と。

「夢を叶える」ということについて、

・インスピレーションと夢を見る力は無限大だ
・(夢をかなえるためには)交渉は粘り強く、そしてこちらから材料(提案)を持ちかけることで道は開けるものだ

と述べています。そして「無重力体験をする」という自分の夢を達成したことのエピソードをユーモアいっぱいに語ってくれます。


ランディ・パウシュ「最後の授業」2

2では、ランディの他の夢について語られます。「NFLのプロ選手になる」という夢。これはかなわなかったわけなんですが、プロ選手になれなかったから学べたことがいっぱいあると言っています。非常に心に残る言葉の数々。

・たとえ夢がかなわなかったとしても、子供のころに打ち込んだことは生涯の友になる
・経験とは、求めていたものが手に入らなかった時に手に入るもの(Experience is what you get when you didn’t get what you wanted)

そして、特に印象に残っているのは、ランディが厳しいフットボールの監督が語ってくれた言葉として紹介してくれるこの言葉。

・間違いを指摘されるのは、君が期待されている証拠だ。
・誤りを指摘されない環境は自分のためにはならない。批判は愛情の証だ。

自分の今の環境を振り返り、間違いを指摘してくれる「師」はいるか。そして自分は間違いをしっかりと指摘できているか。そんなことを考えさせられる言葉です。

youtubeの「最後の授業2」

ランディ・パウシュ「最後の授業」3

ここではランディの最も重要でかつ最も達成が困難な夢、「ディズニーのイマジニアになる」ことについて語られます。

ランディーはカーネギーメロン大学の博士号を取得し、履歴書を送りますが、丁寧な「不採用」の通知を受け取ります。ランディの大きな挫折です。そこでランディが語る下記の言葉がこの「最後の授業」のハイライトではないでしょうか。

なぜ夢の実現の前にレンガの壁が立ちはだかるのか。それは夢に対する思いを証明するため。思いの弱い人はここで止まってしまう。

ランディは決して止まらなかったんですね。

ランデイはVR(ヴァーチャル・リアリティー)の研究に没頭、数々の成果を出し、VRの世界で一目置かれる存在となっていきます。そんな中、ディズニーでVRに関する極秘プロジェクトが計画されていることを知ります。VRを使ったアトラクションの開発です。

そんな中、ランディはディズニーのVRプロジェクトのキーマン、ジョン・スノッティーへの接触を試みます。「別件があるので、ランチでもいかがですか?」。その時の気持ちをランディはこう表現してます。

私は嘘をついてでもあなたに会うきっかけを作ります。あなたとランチができるのであれば海王星にでも行きます!

そしてランディはジョンと会う機会を得ます。そこでランディは数多くのVRの専門家に会い、ジョンに何を質問すべきかを聞き、すべて覚えたんです。「VRの天才」と思われるために。そして、ランディが「サバティカルに入るので、ディズニーと一緒に仕事がしたい」とお願いをします。そして、「半年間自費」という、誰もが首をかしげる条件でディズニーとの仕事をGETします。

ランディは、ジョンとの仕事の中で得たとても素晴らしい教訓として、下記の言葉を紹介してくれます。忘れたくない言葉です。

人は誰でも素晴らしいのだ。君が誰かに腹を立てても、その人を長い目で見ろ。必ずいい面が見えるはずだ。

youtubeの「最後の授業3」

ランディ・パウシュ「最後の授業」4

ランディは大学長の「知的財産の流出になる」という「レンガの壁」にも負けず、ディズニーとの仕事に向かいました。そこで現場との協働を通じ、さらにランディはVRのプロフェッショナルをして更なる高みを目指します。

アンディは子供からの夢をついにかなえたのです。

当然ながら、ディズニーからは「大学を辞めて、うちに来ないか」という誘いが。しかしアンディはディズニーに残らなかった。なぜか。それはアンディにはもう一つの夢があったから。「多くの人の夢をかなえることを助ける」という夢が。夢をかなえることを助けるためには、ディズニーではなく、カーネギーメロン大学の教壇に立つことだと。

そしてランディーは大学で「バーチャル世界の創造」という新しい取組を始めます。学部を超えた50人の学生が4人ずつのチームになり、2週間のプロジェクトでVRの作品を作ります。そのあとチーム編成を変え、作品を作る。これを5回続けるというもの。これがBVWです。

当時のコンピュータ処理能力は現在と比べ物にならない低レベル。この試みは苦難の連続だったのです。。

youtubeの「最後の授業4」

ランディ・パウシュ「最後の授業」5

この授業でうまれた生徒の作品はランディの想像を超えた出来栄えだったようです。もう教えること何もないと。そんなランディは師匠に「どうしたらいいか」と相談するんですが、その師匠の答えが心に残る言葉です。

生徒たちに「君たちの作品は見事だ。だが、君たちはもっとできる。」と言うんだ。これが最高だと限度を設けることは生徒たちの成長を妨げるだけだ。

この講義は大反響を呼び、定期的に開催されるVR作品の発表会は大盛況、まるで大学対抗のフットボールの壮行会のようでした。そしてランディはこの講義を10年間続け、そして学校全体が一体となることができることを証明しました。

ランディーはこの10年間を振り返り、こんなことを言っています。すごく印象に残る言葉です。

人を喜ばせること、これを経験する機会を与えることが最高の贈り物となる。

youtubeの「最後の授業5」

ランディ・パウシュ「最後の授業」6

しかしこの試みは大変苦しいものでありました。ランディは突然4本の矢が刺さった「記念のベスト」を着て、こんなことを言います。

先を行くものは背中を矢でやられる。しかしそれに耐え、失敗を乗り越え、最後には多くの人が楽しむことができた。

そしてランディはBVWを優秀な後輩に譲り、新しい取り組みを始めます。ランディの最高のパートナーであり、竜巻同様のとんでもないやつ、ドン・マリネリとともに、「ETC=夢を実現する工場」という、全く新しい博士課程をスタートさせます。カリキュラムに座学は一切なし。1年目前半にBVWで5つのVR作品を作り、あと残りの一年半で3つの作品を作る。これのみ。徹底的な実践授業を行うという試みです。

ドンとの共同作業はクレイジーな体験だったようで(笑)「竜巻と同室にいるようなもの」「6年間地獄にいたようなもの。死んで地獄に行ったって何も怖いものはない」という6年間だったようです。。

彼らの新しい試みに対し、背中に矢を打ってこようものなら逆に矢を打ち返される感じでしょうか(笑)

そんなETCは大成功をおさめ、今やシンガポール、オーストラリア、韓国に進出するなど、世界に広がりを見せています。

そんな成果をランディは、円グラフを見せて「ほとんどがドンの貢献だ」と謙虚にかたるのが印象的です。

youtubeの「最後の授業6」

ランディ・パウシュ「最後の授業」7

ランディの夢である「多くの人が夢をかなえることを助ける」、これを実現するためには大学での講義というのはいかにも非効率であると考えていました。そしてアンディが始めたのが「アリスプロジェクト」。これは動画やゲームを作りながらJava言語が学べるというソフトウェア。全米の一割の学校で利用されています。ランディは「僕はこんな遺産を残せることを本当にうれしく思う。そして僕は素晴らしいアリスの中で生き続けることができるでしょう」と語ってます。

アリスプロジェクトのHP

そして、「夢を実現するための要素は何か」について語り始めます。最初にランディは「親、先生、メンター、友達、仲間」を挙げています。

そして、彼の最初の先生であり、ボスであるアンディーについて語り始めます。ランディは傲慢な生徒だったようで、周りとトラブルを起こしていたのですが、それを見てアンディーはこういったそうです。

傲慢だと敬遠されるのは何も君の得にならない。独りで成し遂げられるものは多くはないのだ。

そして、自分の進路をボスであり先生であるランディーに相談したとき、ランディはこう言われたそうです。彼は大学院に進むことなど全く考えていなかったんですが。。

君はどの会社でも優秀な営業マンになれる。どうせなら、それだけ価値のあるものを売りなさい。教育をね。

ここで一呼吸置き、聴衆が静まり返ったところで、「Thanks」とはにかみながら語るランディの姿。言葉にならない多くのことを語っているようで、胸にジンときます。
そして、最後に、「楽しむことは魚にとっての水のようなもの。楽しんで生きていくことなんて当然のこと。だから残された日々を楽しんで生きている。それ以外の方法なんてないんだから」と、楽しむことの重要性を少ない言葉で語っています。

youtubeの「最後の授業7」

ランディ・パウシュ「最後の授業」8

「最後の授業」は架橋に入ってきます。楽しむこと、陽気でいること、好奇心を忘れないこと、友人を大切にすること。生きる原動力になることについてランディは語ってくれます。

そして、とても印象に残るのは、ランディがエピソードとともに語る「あきらめないこと(Never Give Up)」。ランディはカーネギーメロン大学に入る時の苦労したそうです。後の恩師であるアンディの推薦状をもらいながら、テストの結果、不合格。。ランディは他の大学にも挑戦しますがうまくいかず、アンディに「就職します」と告げます。そこでアンディは学部長にかけあい、ランディが直接学部長と交渉する機会を作ります。学部長はランディに対しつれない態度であったのですが、「人生の決定的な瞬間はこれだ」とその場で悟り、全国で15人しかもらえない海軍の研究奨励金の資格を得たことをアピール、そしてその決定的な瞬間を自分のものとし、カーネギーメロン大学への入学が認められたのです。

最後にランディが強調する下記の言葉が再度出てきます。

誰かの助けは必要。助けを得るためには自分も人を助けること。これがとても重要。

そして「正直にまじめに生きること」「失敗したらあやまること」「人の気持ちを思いやること」。そして偶然でしょうか、ランディの奥様の誕生日だったようで、聴衆みんなとともに「Happy Birthday」を歌い、ケーキで奥様の誕生日を祝うのです。そして檀上で熱いキスと抱擁。。

youtubeの「最後の授業8」

ランディ・パウシュ「最後の授業」9

そしてついに「最後の授業」の最後を迎えます。ここではランディの言葉そのものをお伝えしたいと思います。耳が痛い言葉ばかりですが、大事にしたい言葉です。

・レンガの壁があっても、夢の実現をあきらめてはいけない。
・人の批判を聞くこと。評価のグラフであれ、尊敬する人の言葉であれ、批判を素直に聞くことは難しいこと。“そのとおりです”と言えず、“だって、それは”と言い訳をするもの。それではいけない。批判は大切に役立てましょう。
・感謝の心を忘れないこと。自分の成果はチームのおかげであるということを忘れないこと。
・文句を言わず、努力を続けること。
・自分の得意なことを見つけること。
・一生懸命仕事をすること
・人の一番いいところを探すこと。誰でも必ずいつか良いところを見せてくれる。ひたすら待つこと。悪いところだけの人間は一人もいない。
・準備を怠らず、機会を逃さないこと。

そして、最後にランディはこの言葉で締めます。

正しく生きれば、人生の歯車が回って、夢は実現する。

そして、最後にテロップで、ランディがかなえられていなかった2つの夢「NFLでプレーをする」「スタートレックい出演する」、この2つの夢もかなえることができたことが紹介されます。

youtubeの「最後の授業9」


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